人間のチャンピオンを上回るゲームAIの作成はゲーム情報学分野における大きな目標の一つであり、古くから研究開発がされてきた。Alpha Zero に代表されるような深層学習の成功もあり、囲碁・将棋を始めとした様々なゲームでこの目標が達成されるようになった。研究者開発者は各自でゲームAIを作成するため、強いゲームAIが複数入手可能な状況となっている。複数のゲームAIを意思決定に用いることで性能改善が期待されるが、多数決以外はあまり知られていなかった。本講演では、二人ゲームを題材として、多数決や助言など複数プレイヤの意思決定における協調、ペア将棋のようなルール上の協調についての研究を紹介する。

スポーツは身体活動を定量化する営みであり，本質的にデータ計測やデータに基づく分析とは不可分である．本講演ではその中でも過去の成績(試合結果)に基づく適切な定量的実力評価手法やランキング作成手法，およびそれを活用した試合結果予測モデルの構築および実用について，著者の実践結果を中心として述べる．定量的実力評価手法として，得点を競う球技における共通の構造を活用し，複数の競技・種目に対して予測モデルを構築できることを示す．構築したモデルは人間の専門家と同等かそれ以上の予測精度を達成できたことをオリンピック2大会の結果に基づいて示す．

スポーツの代表的な特徴として，躍動的で高速な身体動作が挙げられる．運動速度や反応速度の観点から，これらの動作を従来の低速なロボットで実行するのは困難である．筆者は，スポーツの一例として野球を取り上げ，その基本要素となる走攻守が実現可能なロボットシステムを開発してきた．このシステムは，高速ビジョンと高速アクチュエーションをベースにしたリアルタイムのセンサフィードバック制御によって実現している点が特徴となっている．本発表では，野球ロボットに関する視覚認識および4つの基本運動であるバッティング・ピッチング・キャッチング・ランニングを中心に説明する．

本講演では、2022年に行われた情報処理学会倫理綱領の改訂内容とその背景について紹介する。

AP-1「使える」倫理綱領をつくる：2　学会倫理綱領改訂の現在とこれから

研究者がアンケート・インタビュー・フィールドワーク・ユーザビリティテスト等のユーザ調査を実施する際に、調査参加者に対して行うべき「インフォームドコンセント」の内容について説明・議論する。

現在、人工知能技術の応用が様々な場面で広がっているが、そのことは倫理的な問題も引き起こしている。例えば機械学習システムが司法や人事などの場面で人を評価する際に使われるとき、それが差別的なバイアスを持つことの懸念は深刻である。本発表ではいくつかの具体的な事例を紹介しながら、人工知能を開発・利用する際に考慮するべき倫理的な課題について論じる。

In this presentation, we investigate the convergence speed of the Arimoto-Blahut algorithm. For many channel matrices, the convergence speed is exponential, but for some channel matrices it is slower than exponential. By analyzing the Taylor expansion of the defining function of the Arimoto-Blahut algorithm, we will make the conditions clear for the exponential or slower convergence. The analysis of the slow convergence in this presentation is new. Based on this analysis, we will compare the convergence speeds of the Arimoto-Blahut algorithm numerically with the values obtained in our theorems for several channel matrices. The purpose of this paper is to obtain a complete understanding of the convergence speed of the Arimoto-Blahut algorithm.

講演者は1998年に量子通信路の通信路容量計算法として数種の有本-Blahut型アルゴリズムを提案した。本講演ではこれらのアルゴリズムを現在の視点から解説し、合わせて発表当時の量子情報理論をめぐる状況を回想する。

抄録

離散無記憶単一通信路に対しては，ArimotoとBlahutによって，
その通信路容量を数値的に計算するアルゴリズム
が得られている．一方，多端子通信路の容量域を求める問題は，
一般には非凸最適化問題となる．このことに起因して，
多端子通信路に関しては，いくつかの特別な場合を除き，通信路容量
域を計算するアルゴリズムは確立されておらず，多端子情報
理論における基本的未解決問題の１つとなっている．
本稿では，劣化型放送通信路(DBC)および多重アクセス通信路(MAC)の容量域計算に関するこれまで
の研究を概観するとともに，これらに関する著者らが得た結果について紹介する．

S.~Arimoto と R.~Blahut は，離散無記憶通信路の通信路容量を計算するアルゴリズムを独立に発見し，1972年に両方の論文が掲載された．続いて Arimoto は，Gallagerのランダム符号化復号誤り確率指数とArimotoの正復号指数を計算するアルゴリズムを発見した. 本稿で論ずるのは，これらの指数を計算するアルゴリズムである．オリジナルの Arimoto-Blahut アルゴリズムとの違いやArimotoのアイデアの先鋭性を述べる．

本講演では遅延埋め込み，テンソル分解，多様体学習を用いた信号再構成の手法について解説する。これは与えられた信号に対して自身を含むような信号空間における特徴に着目するのではなく，遅延埋め込み空間における特徴に着目するアプローチである。また，非局所フィルター，畳み込み処理，畳み込みニューラルネットワーク，Deep Image Priorとの関係にも触れる。

連合機械学習(FL: Federated Learning）は分散的な機械学習手法であり、複数の端末に分散するデータを集約・共有することなくモデルの訓練を可能とする。本講演ではFLの基礎とサーバレスなFLに向けた研究動向について紹介する。

近年我々が提案している WaveFit を中心に，反復型の音声合成手法について簡単に紹介する．

深層展開は，数理モデルに基づく定式化をもとにその内部パラメータを深層学習技術を利用して学習する手法の一群であり，学習するパラメータ数の少なさ（＝学習データの少なさ）やアルゴリズムの説明可能性の観点から注目を集めている．本チュートリアルでは，グラフ上データのための深層展開技術の動向に関して紹介する．

ムーアの法則に基づく半導体集積回路の進化は、単にコンピュータの性能向上のみならず、小型化・低価格化を可能とし、それがコンピュータの利用分野の質的な変化と拡大をもたらしてきた。その一方で、集積回路関連技術高度に複雑化・専門化されたことにより、それらに要するコストが急激に増大したことが、集積回路への新規参入の障壁となりかねず、教育的にも産業的にも集積回路のユーザの多様性を狭めている現状がある。
著者らはこれまで、情報技術の実現手段である集積回路が、多様なユーザにとっての真の「道具」になることの意義について論じ、その実践として、オープンソースな設計環境の構築とコミュニティでの実践を通して、集積回路LSIのユーザの質的な拡張を試みてきた。本稿では、その背景と概要について述べる。

近年オープンソース集積回路設計が活性化している．これらはオープンソース EDA に支えられているが，我々の調査した限りにおいて，オープンソースのキャラクタライザとして有力なものが提案されていない．そこで我々はオープンソースのキャラクタライザを開発する事によってセルライブラリのタイミング特性および電力特性の自動抽出を実現することで，設計者が設計したセルライブラリを利用したデジタル回路設計を可能にする．

本講演では，集積回路設計のオープンソース化を念頭に置いたアナログ回路自動設計の取り組みについて紹介する．
オープンなコミュニティでは設計者の裾野の拡大が重要であり，専門知識を持たない設計者でも
容易にアナログ回路が設計できるようなシステムが必要である．回路設計とレイアウト設計のそれぞれについて，
前提知識をもたなくても動作可能な回路を生成できるようにするためシステムを提案する．

Google has been partnering with GlobalFoundries, SkyWater Technology and Efabless to provide fully open source Process Design Kits (PDKs) and toolchains so that any developer can create manufacturable silicon designs. As part of the Open MPW program on https://developers.google.com/silicon we sponsored 9 shuttle runs over the course of two years, allowing the open source community to submit more than 700 unique designs of which around 360 were manufactured at no-cost. In this session we showcase our recent work to leverage Jupyter Notebooks and Conda packages to publish and share interactive silicon design experiments using the open source silicon toolchain.

東京大学では文科省「次世代X-nics半導体創生拠点整備事業」の委託を受け、半導体技術の研究や学習、半導体を用いたシステム研究を志す誰しもが短TAT(Agile)に独自半導体チップを設計製造できる「半導体回路設計製造の民主化拠点:Agile-X」を2022年度より開始した。参入障壁を下げ、多くの異業種や新規参入者が半導体集積回路を気軽かつ低コストに活用できるプラットフォームを整備する。半導体集積回路が「特別な」ものから「誰にでも容易に実現できる」ようにすること、すなわち半導体技術の民主化を実現する。

オープンソース・ソフトウェア(OSS)によるLSI開発が現実のものとなってきた。我々はAIと基本ソフトウェア開発を長年行ってきた。そのソフトウェア開発で得た知見をもとに仕様を決定し、高位合成ツールとOSSなツールを使用して、低コストなLSI開発を進めている。その立場から述べる。

高付加価値の少量多品種LSIにはだれでも自由に使える設計部品（IP)が必須だが、ファブ利用に必要なPDKがNDAにより秘匿されていることがIPの流用を難しくしてきた。PDKオープン化の一助として、オープンソースのEDAの使用を前提としたオープンPDK方式によるPDK開発に取り組んでいる。この方式を採用すれば、ユーザにとっては、PDKの使い勝手が共通であるため、ファブ選択がやりやすくなり、更にIPのポーティングが容易になる。ファブにとっては、早く安くPDKを開発できる。LSI設計に参入障壁がなくなり、潜在ユーザを掘り起こすことができる。NDAを不要とすれば、IPの流通と再利用が促進する。

なんやかんや

デジタル化が進展する中、サプライチェーン・セキュリティ問題が大きな課題となっている。その内容は、政府等の調達する機器等にいわゆるトロージャンが仕込まれた場合のおそれや、企業等のサプライチェーン上にあるサプライヤーの組織が脆弱であるときに、そこがサイバー攻撃を受けて供給途絶したり、サイバー攻撃の踏み台にされたりといった様々なものである。こうした課題に対して各種施策等が提案されてきた。セキュリティ対策を有効に推進するには、関係者が協働して取り組むことが重要であり、コミュニケーションに齟齬のないことが必要である。そこで講演者の政府における経験等を踏まえて、各種施策等について整理・検討する。

近年の半導体業界ではサプライチェーンが分業化しており, 悪意を持った攻撃者が存在したとしても, サプライチェーンを構成する各社のビジネスに脅威を及ぼさないような仕組み構築が重要となってきている.
JEITA 半導体部会 IoT-TF ハードウェアセキュリティWGでは技術的観点での半導体サプライチェーンセキュリティ担保の仕組み構築のための報告書を作成した. 一般的な半導体における想定資産を定義し, それぞれの資産に対してどのような脅威・攻撃があり得るかを纏めた. また, 各攻撃手段に対して, どのような対策技術を取ることができるかを記載し, それらを導入する時の難易度やコストを示した.

昨今のサプライチェーンを狙ったサイバー攻撃の増加や、サイバーセキュリティ規制の高まりから、自社だけではなく、取引先、製品・システムのセキュリティ確保など、サプライチェーン全体での取り組みの必要性が加速しています。本セッションでは、サプライチェーン全体のセキュリティ強化のために必要な対策とは何か、東芝のアプローチと取組を紹介するとともに、東芝が参加しているRRI（ロボット革命・産業 IoT イニシアティブ協議会）とドイツPI4（プラットフォームインダストリー4.0）で知見を共有し議論をしているグローバルなサプライチェーンで求められるTrustworthiness、Chain of Trustの考え方についてご紹介いたします。

近年，IoT等のシステムを構成するハードウェアが設計・製造段階で改ざんされ，システム使用開始後に不正な振る舞いを引き起こす，ハードウェアトロイ（Hardware Trojan : HT）の脅威が指摘されている．本講演では，先端的かつ多様なHTを検出・排除可能なLSIシステム設計・検証技術の確立を目指した研究開発について概説する．特に，従来の「LSI製造を担うファブにおけるHT挿入」にとどまらず，LSIシステム設計・製造のサプライチェーンに潜在する様々なHT挿入の可能性を想定し，（1）設計仕様から回路機能の基本設計を行うフロントエンド（Front-End: FE）設計，（2）回路記述からレイアウトデータを設計するバックエンド（Back-End: BE）設計，(3) LSI製造後のシステム設計におけるHTフリー設計・検証技術の最新研究動向を紹介する．

デバイスやその上で動作するプログラムが意図した通りに動作していることは、その上で提供するサービスの信頼性を保つために欠かすことのできない要素である。
本発表では、IoT機器のサプライチェーン構築とその維持に利用できる技術について、IETF (Internet Engineering Task Force) の標準化動向を紹介する。
プログラムのサプライチェーン証明に関するSCITT、遠隔にあるデバイスやプログラムなど構成検証に関するRATS、TEEを搭載するデバイスのプロビジョニングに関するTEEP、軽量かつセキュアなプログラムアップデートに関するSUITといったグループの動向を紹介し、これらの利用方法について検討を行う。

本講演では、自動運転で活用されるLiDAR技術について、車載等のLiDAR開発の進展状況、LiDAR活用状況などを紹介する。

筆者らは車両に搭載されたLiDARと複数種類の反射率の異なるリフレクタを使用することにより，対象物までの距離とそこに埋め込まれた情報を取得するための新たな情報取得方式をこれまでに提案してきた．このリフレクタを組み合わせたものをリフレクタコードと呼ぶ．平面のガードレールや壁面に設置するリフレクタコードだけでなく，電柱のような曲面にリフレクタコードを設置することも検討してきた．道路交通環境において，多くの場所にこのリフレクタコードを設置することにより，その近辺を通る車両が道路情報などの情報を取得することが可能となる．車両を用いた実験により，このリフレクタコードの認識について検証した結果を紹介する．また，本方式の高度交通システムへの応用についても述べる．

宇宙ステーションの建設や補給等においては宇宙機同士のランデブ・ドッキングミッションが、月・惑星探査においてはターゲットへの接近・着陸や障害物回避等のミッションが生じる。宇宙機の目の役割を担う相対航法センサは、これらミッションの安全と成功の鍵を握る重要なコンポーネントの一つである。我々は新型宇宙ステーション補給機（HTV-X）用の相対航法センサ「Flash LiDAR」を開発している。このセンサはフラッシュ方式のLiDARであるが、新たに開発した高感度の三次元イメージセンサデバイスの採用により、フラッシュ方式の長所をそのままに、広い計測範囲を実現した。本発表ではセンサの設計の概要と特徴、地上試験の進捗、将来の展望について述べる。

水中の可視化とその可視化データをリアルタイムに地上に転送する水中ネットワークの構築を目指し，これまでの音響技術に加え，可視光が水中での伝搬損失が小さいことに着目し，水中への光技術の適用が検討されている．本稿では，我々が，これまでに取り組んできた水中LiDARについて紹介する．まず可視光LiDARが，水中の物体の測距可能であることを示す．その上で可視光LiDARを耐圧容器に収容することにより水中LiDARを開発し，実際に水中で物体の3Dスキャンデータを取得した．今後もスキャンスピードの向上や小型化な，完成度向上を目指し開発を続けて行く予定である．