2017年3月に電子情報通信学会からフェロー称号を戴き，大変光栄に感じております．ご推薦の労をお取りいただいた方々，並びにこれまでご指導いただいた方々に心から御礼申し上げます．あらためて自分は，人との出会いに恵まれて生きてきた人間だなと感じます．これからも微力ながら専門分野の発展のために尽くしていきたいと思います．本稿では，これまでの38年間に行ってきた研究活動の一部を紹介させていただきます．

意識を持ったハードウェアは実現可能か？といった古くからある問いに対して私見を述べる．ここでは，意識を生物物理化学的な現象（プロセス，ダイナミクス）として捉え，これを物理的なハードウェア技術で直接的に実装することについて議論する．

構造モニタリングなどのスマートセンシングをワイヤレスで実現するためには、低消費電力、無線通信の効率化、無線通信の同期化などが要求される．著者らは，RFIDに代表されるバックスキャッタ通信を基にした同期通信を実現する多元接続方式(Multiple Subcarrier Multiple Access)を提案している．本発表では，スマートセンシングシステム実現のための主要な課題（複数サブキャリア間の干渉除去、可変帯域サブキャリア割り当て、計測ゾーン合成）とその研究進捗についても報告する．

2016年以降、嘘やデマ、陰謀論やプロパガンダ、こうした虚偽情報がソーシャルメディアを介して大規模に拡散し、現実世界に混乱や悲劇をもたらす事象が次々と発生している。「フェイクニュース」と呼ばれているこれらの一連の現象は、人間とデジタルテクノロジーの相互作用が生み出す複雑な現象であり、私たちの日常生活や民主主義を脅かす深刻な社会問題である。本発表では、フェイクニュースとは一体何で、どのような仕組みで拡散するのかについて、伝統的な社会科学だけでなく、計算社会科学という新しい学際科学の知見を取り入れながら解説する。また、進化し続けるフェイクニュースにいかに対抗すべきかについて議論する。

脊磁図（Magnetspinogram, MSG) は脊髄症診断のための非侵襲計測法として使われている．脊椎神経の活動を，脳波(electroencephalogram, EEG), のように皮膚表面電極によって計測することが，信号が微弱なため困難であり，脳磁図(magnetoencephalogram, MEG) に対応するMSGが用いられている．脊椎神経の活動の可視化と位置計測には，脳波解析で標準的に使われている単一利得最小ノルム空間フィルタ法(UGMN) や標準化低分解能電磁断層撮像法(sLORETA)，などが用いられている．本研究では，奈良らがMEG/EEG 解析に開発した等価電流双極子直接解法をMSG 解析に適用した結果について紹介する．

再生可能エネルギー利用の拡大、EVからセンサーまで多様なIoTデバイスの実現にとって蓄電池が核となる役割を果たすと考えられる．本講演では，多様な性能の蓄電池を活用する分野横断的なエネルギープラットフォームとして筆者らが開発中のバーチャルグリッドを紹介する．低出力，低容量電力を必要とする応用から大出力，大容量電力を必要とする応用までスケーラブルな分野共通プラットフォームを目指しており，電力供給と消費のマッチングによる低コスト化と利便性向上を目指している．このマッチングには電源と消費の予測と最適化制御のために行われるべき環境，デバイス，人間との複雑コミュニケーションを議論する．

　大地震の直後には，建築物の強度を即座に診断し，避難の判断を可能とすることが重要である．本発表では，電気，建築，応用物理等の学科横断で進めている建築IoTプロジェクトの研究を紹介する．歪みを測定するセンサを柱や梁に取り付けておき，建築物の強度を診断する．センサからの通信には省電力なWi-SUNを利用している．テストベッド建屋を大分県国東市に建て，多数のセンサを取り付けて実験を進めており，センサデータを大学のサーバに収集できることを確認している．固定ゲートウェイを利用する方式だけでなく，モバイルシンクを利用する方式も検討している．本プロジェクトで進めている建築物モニタリングの重要性を示しながら，これまでの研究開発や実験内容について紹介する．